水道水フロリデーション
水道水フロリデーション

                                 平成27年12月7日
NPO日F会員各位              
          NPO法人日本フッ化物むし歯予防協会(NPO日F)会長 境  脩
                          学術編集委員長   山本武夫

水道水フロリデーションのコクラン・レビューに対する論評:原著論文と日本語訳の紹介

師走の候、会員の皆様には、益々ご清栄の事とお慶び申し上げます。

 本会(NPO日F)は、「水道水フロリデーション(WF)」をはじめとする、むし歯予防のために必要な種々のフッ化物利用を図ることを目的としています。このフッ化物利用については、有効性と安全を示す科学的データを基に、WHOを含む150を超える医学保健専門機関が再三にわたって推奨声明を発表してきています。昨年には、FDIにより“WFは小児から成人までのう蝕予防に有効な公衆衛生施策である。このことは70年に及ぶ多数の学術論文と最近のシステマティック・レビューによって証明されてきた。”との表明がなされたところであります(2014)。
 さて最近、科学文献のシステマティック・レビューを行っている研究機関のひとつコクラン・グループ(英国)は、“WFの有効性を示すエビデンスの信頼度は低い”、との見解を発表しました(2015)。“小児おけるう蝕予防効果は他のレビュー報告と一致して認められるものの、成人における効果、社会経済条件によるリスク格差の是正効果、また近年における歯磨剤などフッ化物製剤普及の条件下での有効性を示す学術的な文献が見当たらない”、との見解でありました。
 早々にこれに対応し、英国のマイケル・レノン教授(Professor Michael A Lennon OBE)は論評を発表しました(2015)。彼は、コクラン・グループの評価方法が特に臨床実験評価に対応した特徴を持つものであり、これを地域単位で行うWFに対応させた場合には根本的な不合理が生ずる、との問題点を指摘しました。また、すでに公表されている他4つのシステマティック・レビューを含めて分析し、包括的でより妥当なWFに関する評価の結論を示しました。
この機会に、NPO日F会員各位におかれましては、WFの有効性に関するご理解をさらに深めて頂くため、マイケル・レノン教授による「WFのコクラン・レビューに対する論評」の英文原文と日本語訳を合わせて紹介させていただきます。なお、当論評の重要ポイントを以下に示します。
@ コクラン方式とは、主に新薬開発に伴い実施される個体単位の無作為臨床研究の評価方法として開発されたものであり、住民全体を対象とした公衆衛生型研究の評価になじまない。
A コクラン方式では、経年調査研究(longitudinal study)だけがエビデンスとして採用され、一方、断面調査研究(cross sectional study)は除外されている。そのため、成人の歯の健康に対する効果、社会経済的理由によるう蝕有病格差の是正効果、歯磨剤等の普及条件下においても確認されているう蝕予防効果など、今日までに多くの断面調査による有用な疫学調査が存在しているにも関わらず、これら文献は総て評価対象からはずされていて不合理である。
B これまでに行われた米国、英国、豪州の研究機関によるWFに関する系統的な論文評価は以下のごとくで、いずれもう蝕予防の有効性が確認されている。
・ヨーク報告(McDonagh et al., 2000)(英国):エビデンスの質は中程度で、結論は「WFはう蝕有病状況を改善する。」
・オーストラリア国立医学研究評議会(2007)(豪州):エビデンスの質は強固で、結論は「WFがう蝕予防に有効であることは確実である。」
・ツルーマン(Truman et al., 2002)(米国):エビデンスの質は強固で、結論は「地域全他に蓄積されるう蝕の量を減少させる。」
・地域予防サービス作業班(Community Preventive Services Task Force, 2013)(米国):エビデンスの質は強固で、結論は「住民の各年代にわたってう蝕が抑制される。」

 現在、国内では、国の「歯科口腔保健に関する法律(歯科口腔保健法)」が制定されて以来、43都道府県にて「歯科口腔保健条例」などが策定され、その中でもフッ化物洗口などのフッ化物によるむし歯予防対策が推進されています。その科学的根拠となっている全身的フッ化物利用の「水道水フロリデーション(WF)」については、世界の実施地区における断面調査と経年調査を合わせた総合的な評価から、昨今のフッ化物配合歯磨剤などの普及の条件下にあってもなお有意なう蝕予防効果が認められています。一部論文の偏った情報に振り回されることなく、包括的でより正確な情報を基に公共政策としてのWFの有用性を理解してゆくべきと考えます。

水道水フロリデーションのコクラン・レビューに対する論評の日本語訳はこちらをクリック

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(翻訳文のお問い合わせ先:田浦専務理事・小林清吾理事・山本武夫学術編集委員長)


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